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昆布の一生

■昆布の生活史を中心にご紹介

昆布(マコンブSaccharina japonica)は、我が国をはじめとする東アジア諸国で古くから利用されている重要な食用海藻です。佃煮やだし昆布などの独特の風味と旨みは米飯食と相性が良いため、昆布はコメを主食とする東アジアの人々にとって受け入れ易い食材だったのでしょう。近年では昆布に含まれるミネラルやカロテノイド系色素(フコキサンチン)、粘質多糖(フコイダンやアルギン酸)などに種々の健康機能性が見出されたこともあり、昆布食品には健康増進の効果も期待されるようになりました。ところで、海洋植物の一種(褐藻)である昆布が、海の中でどのように生まれ育って子孫を残すのかについてご存知でしょうか。昆布は陸上の植物のように種子や地下茎で増える?実は、昆布はシダやキノコのように「胞子」で増える、というのが正解です。ただし、昆布の胞子には鞭毛により海水中を遊泳して生息域を拡大し、そこから発生したオスとメスの配偶体により有性生殖を行うなどの特異な性質があります。このページでは、昆布がどのような植物なのか、昆布の生活史を中心にご紹介したいと思います。

■出発点となる胞子体

私たちが食べているのは成長した大人の昆布の葉(葉状部)で、これは胞子を作って子孫を残すという役割をもつことから胞子体(sporophyte)と呼ばれます。昆布の一生をたどる出発点として、先ずこの胞子体がどのようなものか見てみましょう。

図1には成長した昆布の胞子体の姿を示しています。全長は2~8メートル、幅は30cmほどで辺縁部は波打っています。一番下には根のような器官がありますが、これは岩などの基質に結合するための器官であり付着器と呼ばれます(昆布の養殖現場では、通常「ガニアシ」と呼ばれています)。この付着器は陸上植物の「根」とは異なり、栄養分や水分を吸収する働きはほとんどありません。付着器の直ぐ上の細くなった部分を茎状部と呼び、茎状部の上の広がった部分を葉状部と呼びます。私たちが食べているのは主にこの葉状部です。葉状部は、光合成により糖分を作る「葉」としての役割を果たすと同時に、海水中の窒素やリン酸などの栄養分を吸収する「根」の働きも担っています。

一般に、植物の成長は成長点と呼ばれる細胞分裂の特に盛んな場所を中心に起こることが知られていますが、陸上植物の場合、この成長点は「芽」などの先端部にあり先端部が成長することにより植物体の伸長が起こります。一方、昆布の成長点は陸上植物とは異なり葉状体の下方(茎状部の上方)にあるため、先端の葉状部を上方に送り出すようにして伸長が起こります(図1・2)。従って、昆布では根元に近い部分が若く先端部分が古いことになります(陸上植物とは反対です)。

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■「子嚢班(sorus)」へ

さて、昆布胞子体は秋口に成熟して子孫を残すために胞子を作ります。胞子を作る組織は主に葉状体下部の表面にあって班状に見えることから「子嚢班(sorus)」と呼ばれます。子嚢班には胞子を作る細胞が集まっており、その細胞数は1平方センチメートルあたり30-40万にもなります(図3)。この細胞では1細胞あたり30個ほどの胞子が作られますので、子嚢班全体では1平方センチメートルあたり約1000万という膨大な数の胞子が作られます。子嚢班から海水中に放出された胞子は長さの違う2本の鞭毛をもち、海中を遊泳できるため「遊走子(Zoospore)」とも呼ばれます(図3)。

 

 

■幼胞子体(複相 2n)=昆布の赤ちゃん

遊走子は約24時間遊泳できるエネルギーをもっており、それを使って栄養塩が豊富で日当たりと水質の良い場所を探して遊泳を続けます。この遊泳を終えると岩場や貝殻などの基質に着底し、発芽成長して配偶体(Gametophyte)と呼ばれる顕微鏡を使ってようやく見える大きさの藻(も)のような姿となります(図4)。配偶体にはオスとメスの性があり、それぞれ雄性配偶体および雌性配偶体と呼ばれます(そのため、この世代は有性世代とも呼ばれます)。雄性および雌性配偶体は、それぞれ精子と卵(いずれも単相 n)を形成し、それらは受精(有性生殖)して受精卵(複相 2n)を生じます。この受精卵が発芽して目に見える大きさに成長したものが幼胞子体(複相 2n)です。これは小さな昆布の姿をしており、昆布の赤ちゃんとも言えるものです(図4)。

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 ■昆布のライフサイクル

 幼胞子体は越冬の後、春先から急速に成長し、夏には立派な昆布の姿となります。さらに秋口には成熟して遊走子をつくって1年目が終わります。この1年目の胞子体は冬を迎える頃、休止期に入って葉状部の半分以上の部分は枯れてしまいます。ただし成長点は残っており、2年目の春にはここから再生し2年目の胞子体として1年目よりも大きく成長します。2年目の胞子体も秋口になると遊走子を作りますが、1年目の胞子体とは異なり遊走子を放出した後に枯死して2年の寿命を終えます。このように、昆布は遊走子から発生したオスとメスの配偶体という有性世代の後、授精卵から発生した胞子体という有性世代で2年の夏を過ごし、配偶体を残して寿命を終える、というライフサイクルを営んでいます(図5)。陸上植物とくらべるとかなり複雑です。

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なお、1年目の胞子体からその年に収穫可能な大きさに育てたり、2年間かけて栽培する技術も確立しており、より品質の揃った昆布を毎年安定して生産できるようになっています。因みに図6は函館市南茅部町で収穫した昆布を天日干ししている様子です。

 

 

 

 

 

北海道大学大学院水産科学研究院

教授 水産学博士 尾島孝男

教授 水産学博士 水田浩之